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君にドキドキした、その一番最初はいつだったんだろう。
待ち合わせ場所で、少し遅れてくる君を待つ、その時間はいつでも私を緊張させる。隣を歩く君の横顔をこっそり盗み見るときよりも、だ。
もともと人を待つ時間というのが苦手だった。
けれど人様を待たせるのはとても嫌な気分がするので、いつでも息を切らして待ち合わせ場所に駆けつけては、一度時計を確認し、一番近くのトイレで襟を正し、鏡の前で笑顔を作ってみる。
そして何食わぬ顔で待ち合わせ場所に戻り、相手を待つ。
待ちながらももう一度トイレの鏡の前に戻りたい衝動にかられたりする。
---前髪おかしくないかなぁ。
友達を待つ時は、友達の服装と自分の格好におかしなギャップが生まれないかと心配する。
上司を待つ時は、それこそなんとも言い得ない胃の絞められるような気分にため息をもらして過ごす。
久しぶりな相手を待つなら、お互いの変化にお互いを見付けられるのかと不安になる。
けれど、あなたを待つ時は、それはもう慣れたもので、
「やぁ」
と声をかけられてから振り返ってもいいし、こっちからあなたを見付けて軽く手を振りながら近づいていってもいい。
待っている時間も本を読んでいてもいいし、勉強をしながら呼び出してもよかった。
だからなのか、君を待つ時間のドキドキがあんまり強くって、きっとそれを恋と勘違いしたんだろう、と思った。
なぜあんなにドキドキしたかはわからなかったから、気にしないことにして。
---『つり橋効果』ってやつかな。
好きという感情は難しい。
「なぜって、みんな好きなんだもん」
いつだってそう答えてきた。
身近にいて微笑んでくれる人は誰も彼も好きなんだ。
そのとき近くにいる順に、恋をしてたこともあったかもしれない。
もちろん彼女持ちを除いて、ね。
そして、
「嫌いになるには理由が必要だが、好きになるのに何か理由が必要かい?」
映画の中のこの一言に、私は大きく頷いた。
そうして、やっぱり私にとって、好きという感情は難しい。
これまでお付き合いしたたくさんの人、その人への感情が『親しい人』から『恋人になりたい』に変わるとき、それは多くのケースで、相手への独占欲が目覚めた瞬間だったんだろうと思う。
その人を身近に感じすぎて、他の人ともそんな関係だと嫌だ、そう思うと狩猟本能が目覚めるらしい。
まあ、分析してみるなら、そんなところかな。
---でもね、今は、独占のためじゃない恋がしたい。
君のことは、ずっと前から知っていて、そして君にはいつもかわいい彼女がいることも知っていた。
だからね、笑顔で近づいてこられても、心のバリアーは開かなかったの。
だからね、果たして最初に君にドキドキを覚えたのが、いったいいつなのかわからないの。
その頃は「いいなぁ」と思ったら負けだから、独占欲が目覚めて追うのはカッコ悪いじゃん、て思っていたから。
君を待つ、短い時間にドキドキは強さを増し、
---でも、カッコ悪くなってたらどうしよう。
と少し考えたものの、改札を出てきた君の笑顔に、ドキドキが最高潮に達したせいで、私、もしかしたら恋をしたのかもしれない。
強風で動かなかった観覧車に二人で乗ることができてたら、今、もうちょっと違ったのかな。
私の心はあなたからは離れてしまったので、今年の夏はあなたといることはできない。
けれど、まだ、君ともいることはできない。
寂しがりやだから恋が多いんだと思ってた、過去の私。
恋が多いのは素敵な人にたくさん出会ったからだと信じられる、今の私。
もう一度、君を呼び出すよ。
そして君を待つ時間にもう一度君に恋したら、この好きを育ててみてもいいかもしれない。
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